昨年、私たち日本教団が属する北アジア太平洋支部は大きな転換期を迎えました。合わせて人口4億人を超えるパキスタンとバングラデシュが加わり、当支部は世界の13支部の中で最大のイスラム人口を抱えることになったのです。
6月初旬、ロンドンのアドベンチストイスラム宣教センター所長であるペドラス博士が来日し、東京中央教会でイスラム教理解セミナーが開催されました。博士は「アブラハム系宗教の再結集」という壮大なビジョンを熱く訴え続けています。
イザヤ書には、終わりの時代に神の民の上に輝く主の栄光を認め、多くの民が合流してくる預言があります。
「多くのらくだ、ミデアンおよびエパの若きらくだはあなたをおおい、シバの人々はみな黄金、乳香を携えてきて、主の誉を宣べ伝える。ケダルの羊の群れはみなあなたに集まって来、ネバヨテの雄羊はあなたに仕え、わが祭壇の上にのぼって受けいれられる。こうして、わたしはわが栄光の家を輝かす」(イザヤ書60章6、7節、口語訳)
これらの聖句に登場するケダル、ネバヨテ、ミデアン、エパ、シバは、すべてアブラハムの子孫、イシュマエルに繋がる人々と考えられています。ペドラス博士は、これらの末裔であるイスラムの人々が、主の光の輝きに立ち返るという預言が、ご自身の生きているうちに成就することを切望しています。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は、唯一神を信じる三つの宗教であり、すべてアブラハムをルーツとしています。この三つの宗教の再統合というビジョンは、私たちに大きな希望を与えてくれます。
イスラム圏ではクリスチャンが敬遠されがちですが、アドベンチストは比較的好意的に受け入れられます。豚肉を食さず、飲酒をしないという共通の生活習慣が、彼らの共感を呼ぶからです。また、彼らは旧新約聖書をコーランに先立つ啓典と認め、イエスが終末に再臨することを独自の理解で信じています。イエスの再臨を信じる兄弟として、共通のルーツを持つ兄弟として関係を築くことができるはずです。
アブラハム系宗教の再統合という視点から見ると、アドベンチストは重要な架け橋となり得ることがわかります。ユダヤ教徒とは安息日という共通点があり、イスラム教徒とは生活様式における共通点があります。これらの特徴は、キリスト教世界では「変わった存在」あるいは「周辺的な存在」と見なされることもあるかもしれません。私たち自身もそう認識してしまうことがありますが、アブラハム系宗教全体から見れば、私たちはまさにその中心に位置し、架け橋となる存在なのです。
イスラム教やユダヤ教との関係性を問い直すことは、私たちのアイデンティティの確認にも繋がります。そしてそれは、私たちが終末に果たすべき、神から与えられた大きな役割を自覚することに他なりません。
*聖句は©️日本聖書協会
アドベンチスト・ライフ2025年7月号
教団総理 稲田豊