セブンスデー・アドベンチスト教会

時代の動きの中で

時代の動きの中で

5年前に韓国に赴任したとき、社会のキャッシュレス化が進んでいることに感心しました。4年前には、中国のアドベンチスト教会では献金もQRコード決済、いわゆるスマホ決済で捧げられていることを知り、驚かされました。当時、中国の都市部では90パーセントの決済がQRコードで行われると言われていました。現金払いは非常な不自由を被る有様で、外国人は困惑していました。中国はクレジットカード社会という段階を飛び越えて、一挙に現金社会からスマホ決済に移ったと聞かされました。

一方、日本は世界でも最高度の治安の良さ、贋金の流通を許さない高度な印刷技術による紙幣などによって、強固な現金社会を作り上げてきました。それは誇るべきことであったに違いありませんが、完璧に作り上げたシステムが次のイノベーションを妨げてしまうという結果も産みました。

北アジア太平洋支部内で、コロナ禍によって落ち込んだ什一の回復がいちばん遅れたのは日本です。ネット上の決済に慣れない現金社会であることが原因であると考えられます。しかし日本の頑固な現金第一主義も、ついに崩れ始めたようです。それは仕方がないことなのかもしれませんが、私は不安を禁じえません。中国では、スマホ決済についていけない老人をバカにする風潮が問題になったと言います。また現金を扱うことで与えられる金銭感覚や節約の意識がなくなり、すべてがスマホの画面の数字だけになったときに、金銭感覚が狂ってくると言われています。財布が軽くなり薄くなっていくときに感じる心細さがなくなるということでしょうか。子どもたちからは、百円玉を握りしめて駄菓子屋で悩む喜びを奪ってしまいます(いつの時代の話だと怒られそうですが)。

中国共産党はこの決済の電子化によってお金の流れを掴んだだけでなく、国民への監視体制を完成させたと言われています。中国がコロナの封じ込めをあれだけ効率的にやれた理由の1つであろうと言うのです。

日本政府もキャッシュレス化によって、特に富裕層のお金の流れを掴もうとしているようです。それ以上の意図もあるのかもしれません。各国政府は国民の自由と安全保障とのバランスをどう取るのかという問題にぶつかっています。

私たちはアドベンチストとして、この時代の動きの中で目覚めていなければなりません。私たちは今が終わりの世であり、小羊と獣の最後の戦いが迫っていることを知っています。小羊イエスの与える自由が何であるかを経験し、獣に奪われないようにするのです。「この刻印のない者はみな、物を買うことも売ることもできないようにした」(ヨハネの黙示録13章17節、口語訳)。この言葉が脳裏から離れません。

*聖句は©️日本聖書協会

アドベンチスト・ライフ
2021年4月号
教団総理 稲田 豊