今年の1月4日、WHO世界保健機構は、「我々の健康に安全なレベルのアルコール消費はない」と声明を出しました。少量の飲酒でも、少なくとも7種のがんの原因になるといわれています。
影響を及ぼす範囲は、がんだけにとどまりません。英国の医学雑誌『Nature communications』20
22年3月4日号では、1日平均1~2単位のアルコールでも脳が萎縮すると結論付けています。この1単位というのはワイン1杯、ビールコップ1杯(200ml)です。また2020年3月14日の『Journal of Addictive Diseases』では、アルコール摂取により自殺のリスクは65パーセント上昇するとしています。
長く信じられてきた研究結果にJカーブというものがあります。これは、時々もしくは少量飲む人の死亡率が、まったく飲まない人より少し低く、飲む量に比例して死亡率が上がる、というものです。確かに虚血性心疾患の発症は、少量飲む人のほうがまったく飲まない人より少し低いというデータが日本にはありました。しかし、ストレス軽減などを含めた少量飲酒のメリットとされるものを、がん、生活習慣病などの他のリスクがはるかに上回ってしまうのです。「少量の飲酒は健康に良い」という考えは今や否定されつつあるのです。
カナダやスウェーデンなど、多くの国の飲酒についてのガイドラインで、ゼロではないが低リスクとされる飲酒は、缶ビールでいえば週に350ml缶2本までとしています。また、毎日1本以上は高リスクと位置付けています。実際は飲酒の量がどんどん増えていく人が多いのです。アルコール依存が最も大きなリスクといえます。
日本でもようやく厚生労働省が国内初の飲酒ガイドラインを作成しています。しかし、低リスクの飲酒を男性1日40グラム、女性20グラムとしています。これは、韓国と並んで国際的には一番高い数字です。日本と韓国は世界的にも飲酒大国だということでしょう。その数値までなら安全と誤解されてしまうと異論が噴出し、結局まだまとまっていません。
何人もの論者に、この問題を論じるときの歯切れの悪さを感じます。それは本人が飲んでいるからです。本当は飲まないほうが良いのだけれど、自分の口からは言えないという思いです。WHOの声明は国際的に大きく報じられたにもかかわらず、日本での扱いは小さいものでした。これは関係者に飲む人が多いゆえの忖度ではないかと思います。飲まない人間には飲む人の気持ちはわからないといわれてきました。現在の状況はむしろ逆ではないでしょうか。私は一滴も飲んでいない。君たちも飲まないでほしい。そのように次世代にはっきり言える人が必要ではないでしょうか。
「真理はあなたたちを自由にする」(ヨハネによる福音書8章32節)と言われた主は、アルコール依存のみならず、すべての依存から私たちを解放してくださいます。
*聖句は©️日本聖書協会
アドベンチスト・ライフ2023年11月号
教団総理 稲田 豊